2月のLancet(有名医学雑誌)のウェブ版に掲載された面白い記事がありました。
「Quarter-dose quadruple combination therapy for initial treatment of hypertension」(4種類を混ぜた薬で、初回の高血圧治療効果)というものです。
そもそも、血圧を下げる薬は、①カルシウム拮抗剤 ②レニン・アンギオテンシン系抑制剤(ACE、ARB)③β遮断薬/α遮断薬 ④利尿剤の4種類です。(かなり雑に分けて)
ちなみに、日本で一番使われているのは①のカルシウム拮抗剤です。
通常、高血圧の患者さんには1種類の降圧剤で始めますが、効果が十分ではない時には、2種類目の降圧剤を追加投与することがあります。
最近は2種類が一つの錠剤になった降圧剤を使うことも多くなりました。(2錠飲むより飲みやすく、お値段も安いことが多いことが利点)
2016年11月から「ミカトリオ配合錠」という3種類(カルシウム拮抗剤+ ARB+利尿剤)が1錠になった薬も発売になりました。
発売されたばかりということもあり、実際にこの新薬(と言っても、これまで発売されていた薬を合わせたものですが)を使いのは面倒なので、それほどは売れないと思います。
第一選択に使えない薬ですから。
さて、Lancetに戻ります。
この論文は、高血圧の初回治療に4種類の降圧剤を使用しています。
種類は多いのですが、その量は少ないため、副作用も少なくて効果が抜群!というのが、この論文の主旨です。
この研究はでは、カルシウム拮抗剤(アムロジピン1.25mg)+ ARB(イルベサルタン37.5mg)+β遮断薬(アテノロール12.5㎎)+利尿剤(ハイドロクロロチアジド6.25mg)が一つのカプセルになっているのが使用されました。この研究はオーストラリアのもので、薬の量は日本で使用される約半分の量(一錠の量)です。ただし、オーストラリアでは1/4の量ということになります。(通常、海外の薬の使用量は日本での使用量より多く設定されています)
最終的に研究対象となったのは18人(超有名雑誌に掲載されるのには、驚くほど少ないです)で、24時間の収縮期血圧は、実際に薬を飲んでいない人(プラセボ群)に比べて、18.7mmHg有意(P<0.001)に低下したというものです。
私には面白い論文です。ただし、この論文の前に2007年に「Hypertention」に掲載された論文(速報)があります。
「Low-dose quadruple antihypertensive combination: more efficacious than individual agents」(低用量降圧剤4種配合剤は単剤より効果的)というものです。
カルシウム拮抗剤(アムロジピン)+ ACE(カプトプリル)+β遮断薬(アテノロール)+利尿剤(ベンドロフルメチアジド)をそれぞれ1/4量の配合剤を飲んだ22人、カルシウム拮抗剤(アムロジピン)通常量は22人、β遮断薬(アテノロール)通常量は20人、
利尿剤(ベンドロフルメチアジド)通常量は22人、ACE(カプトプリル)通常量は22人で比較されています。
その結果、低用量配合剤投与された方の収縮期血圧は、いずれの単剤よりも優位に低かったというものです。(また、140/90mmHg以下を目標とした目標達成率は、配合剤60%、他は15%~40%と低かったという結果でした)
少量4種の降圧剤の効果については、10年の期間で2つの論文しかないのはちょっと疑問もありますが、単独よりも効果が良いというのは面白いと思います。
実際の臨床(患者さに)使うとなると話は違います。
この薬を第一選択で使用した場合で、血圧のコントロールが不十分である場合は、どうすればいいのか?という疑問が生じるでしょう。
少量4種を増やすのか(もうそうなると、少量ではなくなる)、単剤を追加投与するのかという問題です。
医者は、そのさじ加減に自分の医療的恍惚感を感じる動物なので、さじ加減がやりにくい薬には抵抗を感じるのは当然だと思います。
でも、4種類を少量混ぜることにより、よい降圧効果が得られれば、国の医療費削減もできる可能性もあります。今後、期待される投与法の一つになる可能性はあると思います。
まあ、そんなことより、高血圧の薬として、ARB(通常高価)をやめてカルシウム拮抗剤(ARBより安い)にした方が、医療費削減には効果あると思いますが・・・、製薬会社は嫌がるだろうな~~~。