コレステロール(LDLコレステロール)異常を考える

「コレステロールの値が高いですね。しかも悪玉コレステロールが高いですね。」と言われると、体に悪いと思われると思います。
確かにこれは事実だと思います。
では、どの程度が悪いのでしょうか?日本の「動脈硬化疾患予防ガイドライン(2012)」では、LDLコレステロール140mg/dl以上は異常とされていますが、日本人間ドック学会(2014)は男性では179mg/dl以上が異常値とされています。(72~178は正常)
アメリカではどうでしょうか。米国心臓病協会の「心臓病予防のためのガイドライン」(2013年)ではLDLコレステロール190mg/dl以上は異常(ただし、動脈硬化などがない場合)とされています。(治療時の目標値の設定なし)
ヨーロッパではどうでしょうか?欧州心臓学会と欧州動脈硬化学会の2016年のガイドラインではLDLコレステロール190mg/dl以上は異常とされています。(治療時の目標値あり)

なんだか違和感ありませんか?
日本人の設定は少し厳しい印象がありますね。(勿論、日本人と外国人を同一視して論じると問題はあると思いますが)
LDLコレステロールの値(あたい)そのものにも問題があります。
LDLコレステロールの値を出す場合は、直接的に計測するのではなく、フリードワルド計算式(F式)が推奨されています。(つまり、コレステロール値、HDLコレステロール値、トリグリセリド(TG)から算出する方法)
この計算式で高トリグリセリド(TG)(400以上)ではLDLコレステロール値は信用できません。かなり低目にでてしまうことが多いのです。
動脈硬化疾患予防ガイドラインでは、TGが400以上なら+30しなさいとありますが、
より正確な計算式はないものでしょうか?(F式は1972年の計算式で古い?)
2013年のJAMA誌に新しい計算式が報告されています。米国での135万人のデータで確認されたものですから、信頼度は高いと思います。(F式って440人のデータからのもの)

LDLコレステロール値が大切なら、日本での実際の測り方はどうなっているでしょうか?
直接法(直接測る)というものがあり、日本で開発され、日本でのみ使用されています。
この直接法も色々と怪しい部分があります。
多数の会社があり(10社以上)、色々な施設で使われていますが、2007年に会社によるバラつきのため、直接法は信頼できないと報告されています。
それでも使われる直接法・・・、高TG血症となると不正確なLDLコレステロール値、なかなか厳しい状況だと感じます。
現時点では、先述の(JAMAに掲載された)新しい計算式が一番いいのかもしれません。
今後、様々な検証がなさないと本来の信頼できませんが、現時点でも、F式に勝っていると考えられるため、スマホなどに数値を入力するだけで、LDLコレステロール値が出る、LDLコレステロールの新しい計算式アプリが登場してくれるのを期待します。

さて、その正常値(問題にならない値)、計測法にも問題ありと思われるLDLコレステロールですが、やはり異常高値は心臓の血管系の病気を引き起こすのは間違いありません。
では、どこまで下げればいいのか、どうやって下げればいいのかはどうでしょうか?

○どこまで下げるの
2016年のJAMA Intern Med誌(ウェブ )に、心筋梗塞を起こした方の再発予防についての論文があります。
3万人以上の心血管系の病気の方で、LDLコレステロール70以下、70~100、100~130に分けると、死亡の危険度は70~100が一番良かったという結果が出ています。
一概に下げ過ぎても意味ないとは言えませんが、ある程度でいい可能性は示唆されます。

○どうやって下げるの(どの薬を使って)
2016年のJAMAでは、スタチン(圧倒的に使われている薬)以外の薬を使っても、その後の心血管系の病気の予防に、それほど大きさ差は出なかったと結論づけられています。
ん?これではスタチン製剤ってそれほど・・と思われるかもしれませんので、スタチン製剤が良いという文献を加えておきます。
Circulationという雑誌では、45歳から64才でLDLコレステロール190位の男性、6595人にスタチン製剤を飲ませた群と偽薬で5年経過、その後15年観察(20年に渡る研究は素晴らしい)すると飲んだ方は死亡率を13%、心血管系の死亡率を21%下げたという報告があります。(やはり、高い人は下げる薬は飲んだ方がよさそうですね)
*ちなみに、悪玉コレステロールを下げる食事・・という見出しを見ることがありますが、
LDLコレステロールの70~80%は主に肝臓で作られるので、食事で頑張ってもそれほど下がらないのは事実です。2015年に日本動脈硬化学会もそう発表しています。(ただし、高LDLコレステロールの方はどんな食事を摂っても良いという意味ではありません)

悪玉コレステロールを下げる・・、聞けば、どなたでもそう思われるかと思いますが、特別な状態ではないのに(心血管系の病歴があったり、危険因子がある)、神経質になり過ぎたり、薬を安易に開始するのは、製薬会社が喜ぶだけなのかもしれません。