機能性ディスペプシア(FD)という病気と薬について

機能性ディスペプシアという病気があります。

耳慣れない病気だと思いますが、実は多くの日本人がかかっているとも言われている病気です。(日本では、3.4人に1人とも言われています・・・ちょっと多く言いすぎかも)

 

胃の調子が前から悪いために胃カメラを受けた患者さんで、医者から「胃はキレイでしたよ。まあ、軽い慢性胃炎ですね。ピロリ菌もいなかったようですから、症状から考えると神経性胃炎と思います。」と言われた方は、その病気の可能性は高いです。(医者の言い方は色々とだと思いますが、大きな病気がないのに胃の調子が悪い方という意味)

 

この病気は、最近見つかったというものではなく、以前からありました。

1989年のアメリカ消化器病学会で「非潰瘍性消化不良(NUD)」という名称で提唱されました。(私もその頃、患者さんに「あなたはNUDですね。」と伝えていた記憶があります)

その後、国際消化器病学会で議論が繰りかえされ、Rome基準という診断基準ができ、改訂されて、最新版はRomeⅣ(2016年)です。

日本でもFDのガイドラインは2014年にできています。

最新版のRomeⅣ(2016年)の診断基準をみると、

「みぞおちまわりの痛み(焼けるような痛みも)、食後の胃のもたれ、食事を始めると胃が膨らむ感じがするという症状が1つ以上あって、それが6カ月前以上から症状がでて、ここ3カ月は続いている人」と定義されています。

簡単に言うと、長い間、胃の調子が悪い人ってことでしょうか。(ざっくりですが)

大きく2種類に分けてあり、食事と関係がある①食後愁訴症候群、なければ②心窩部痛症候群というものです。

 

この病気の原因は、明らかではありませんが、精神的なストレス、胃の動きが悪いこと、知覚過敏が関係していると言われています。(ピロリ菌に関係して症状がでているものとは分けられています)

原因は明らかではありませんが、胃の動きが悪いことが症状をおこしているのは原因に一つであるのは間違いないと思います。

治療するためには、動きをよくする薬を出せばよくなる、と考えます。

古くから、H2受容体拮抗剤(ガスターなど)、プロトロンビンポンプ阻害剤(タケプロンなど)、セロトニン受容体作動薬(ガスモチン)、ドパミン受容体拮抗剤(プリンペラン)などが処方されてきました。

最近では、アコファイドが発売されました。(2013年)

この薬はセロトニン受容体作動薬(ガスモチン)に似ています。

そもそも、胃の動きが悪くなるのは、アセチルコリンという物質が少なくなるからです。

ガスモチンはアセチルコリンを出させて胃を動かし、アコファイドはアセチルコリンを壊すのを抑えることで、胃を動かす薬です。(ざっくり言うと)

 

これまで、私がFDの患者さんに処方してきたのは、プロトロンビンポンプ阻害剤+セロトニン受容体作動薬です。ただし、症状が改善された方はそれほど多くありません。

そこで、最近は、プロトロンビンポンプ阻害剤+六君子湯を使うようにしています。

六君子湯は漢方です。機能性ディスペプシア=六君子湯とすると、漢方に見識が広い先生方は、注意されると思います。

私が使用する理由は、六君子湯のグレリンとうホルモンに興味を持ったからです。

このグレリンは1999年に日本人が発見したペプチドホルモンです。

主に胃から分泌され、成長ホルモン分泌促進作用、摂食促進作用を持っています。

他にも、筋肉増強、心臓保護効果も持っているようです。

機能性ディスペプシアで食欲なんてなくなった方には強い味方になるグレリン、その血中濃度を上げる六君子湯、いいじゃないですか?

 

現時点では、機能性ディスペプシアに対して、プロトロンビンポンプ阻害剤+六君子湯、そしてアコファイドを追加というのが最良の薬かもしれません。(痛みが強い時はリリカ追加)

いきなり3種類も投与するのは・・?と感じますし、保険的にも問題となると思います。

患者さんの経済的負担も考慮し、プロトロンビンポンプ阻害剤+六君子湯で始めるのが現実的かもしれません。

 

ただし、機能性ディスペプシアの場合は、精神面の改善も重要なので、場合によっては抗うつ剤も考慮すべきだということを加えておきます。

 

追記;201511月のThe New England Journal of Medicine (NEJM)(超有名医学雑誌)に機能性ディスペプシアのことが書かれています。オーストラリアの医師の意見なので、日本にそのまま当てはまるかは不明な部分もありますが、大切な意見として知っているべき内容(医者は特に)だと思います。

その治療として、

   ピロリ菌の除菌(正確に言うと機能性ディスペプシアとは違いますが、痛みがある方では症状は改善することがあります)

   プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーはある程度効く。

   ナウゼリン、アコファイドは効く。ガナトンはいまいち。

   バスパー、セシール(抗不安薬)は効く。

(なかなか治らない時は)

   プロトンポンプ阻害薬をH2ブロッカーに変えるのも一つの方法

   抗うつ剤とリリカまたはガバペン(抗てんかん薬)を併用すると効果ある時がある。

*オピオイド系(かなり強めの鎮痛剤、麻薬など)は使ってはいけない

 

と、簡単に要約してみました。内科医としては、強めの抗うつ剤、抗てんかん薬は使いにくいとこもありますが、覚えておくべきことだと思います。(軽い抗うつ剤の使用の有用性は高くないことも書かれていました)